ある愛の詩


ある愛の詩


新堂冬樹の「ある愛の詩」を一気に読んだ。読んだ。読んだ。時計の針は午前六時を指していた。「忘れ雪」から12ヶ月、純恋小説の新しい風と波。小笠原でイルカのテティスと育った純粋な青年・拓海と東京からやってきた声楽家を志す流香の心が震えるピュアストーリー。またしても疑問符がウサギの様に跳ね回った。

これ一冊だけを読めば純粋なラブストーリーだ。が、これは暗黒小説の雄・新堂冬樹が書いた純恋小説なのだ。闇金・やくざ・傭兵が臓物を撒き散らしながら死に、金の臭いを嗅ぎ分けるどぶねずみ達が闇の底辺を彷徨う、今までの新堂作品とは180度趣が違う。文体も前回の純恋小説「忘れ雪」よりもさらにソフトタッチ。まるで別人が書いたよう。そしてなんと新堂先生作詞作曲の「青の奇跡」を含むオリジナルテーマ曲CDまで付いている。つかの間、思案に暮れた。

思考のチャンネルを切り替えた。もしも、これを映画化したならば…。純粋な青年拓海に劉徳華(アンディ・ラウ)、そして東京からやってきた流香に鄭秀文(サミー・チェン)、もちろん監督は杜琪峰(ジョニー・トー)。こんな純粋な青年を演じられるのは劉徳華しかいない。こんな純恋な物語を映像化できるのは香港映画しかない。そしてエンディングに流れる「青の奇跡」を聴いて安易に涙するのも良いかもしれない。

………。いや、ただ香港映画みたいな純恋小説だと思っただけ。そっと目を閉じ、イルカに乗った劉徳華を思い浮かべてみた。拓海は弾ける笑顔で手を振った。

Posted: 日 - 2月 29, 2004 at 02:31 午前          


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