葉月


運命の女


沢井鯨先生の「葉月」を読んだ。先生の作品は「P.I.P.」(プリズン・イン・プノンペン)「D.O.D.」(ダイス・オア・ダイ)が好きで、三作目を待ち望んでいた。「P.I.P.」はカンボジアの刑務所に入れらた男の話。「D.O.D.」はフィリピンの財宝探しの話。そして今回はバリ島の神話をからめた恋愛小説だ。

中年男が、男性に都合の良い様に書いたギャルゲーみたいな内容だった。最後まで眉一つ動かさずに読み終えた。常識的には説明のつかないシーン(ファンタジー?)の連続に、疑問符を浮かべる気力さえ萎えていった。俺はどんなにつまらなくても最後まで読んでから文句を言う主義だ。最後にすばらしい落ちが待っている可能性もなきにしもあらずだからだ。それさえも、悪い意味で裏切られた。

先生は文中で、作家である主人公の口を介して「前作は、自分では冒険小説のつもりで書いたのだが、アジアンノワール(アジアの暗黒小説)という聞きなれない、マイナーな分野に分類されてしまった。だから今回は王道の恋愛小説で勝負をかけるつもりでいた」と言っている。

結局の所、俺はファンとして先生にアジアンノワールを期待していたのだ(いや別にアジアンノワールでなくても、面白ければ良いという話もあるが…)。やはりここは、同じくモノを作る者として、作り手の意志を尊重するしかあるまい。それが礼儀だ。今回はどうであれ、次回作も買ってしまうのだ。こうしてみると「P.I.P.」って偉大だと思った。

Posted: 水 - 1月 21, 2004 at 02:31 午前          


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